同じ糸番号でも糸味が違ったりする件

左の糸ががピンクがっかた色味の藤色になっています。右は紺系が強く出ている藤色です。

普段あまり使わない糸色を、棚の奥にしまってある糸箱から取り出し、見本に使うことがあります。
ところが、そんな時にたまに困ったことが起きます。

クライアントさんからOK(GOサイン)が出て、いざ量産に入るタイミングで新しい糸を取り寄せて縫ってみると、
手元に残してある刺繍見本と、明らかに色味が違って見えることがあるのです。

その瞬間は、正直かなり焦ります。
「控えた糸番号を間違えたのかもしれない」と思い、見本帳で糸色を確認しても、該当する糸が見当たらない。
念のため似た色をいくつか試し縫いしてみても、やはり見本の色とは違っている。

では褪色(色あせ)かというと、そういう理由でもないことが多く、
糸を製造した時の条件──お天気や室温、染料の具合、時間差、ロットの違いなど──によって、
同じ番号でも微妙に色味が変わることがあるのだと、経験上感じます。

私が子供の頃は、こうした状況が今よりもずっと頻繁にありました。
当時は糸職人さんの手作業に頼る部分も多く、どうしても色に“ぶれ”が出やすかったのだと思います。

今は製造も管理も非常に精密になり、昔に比べれば滅多に起こらなくなりました。
ただ、気を付けなければならない落とし穴が、もう一つあります。

それは、ごく稀に「糸色と番号シールが一致していない」ことがある、という点です。
長年やっていると違和感にすぐ気づけるのですが、経験の浅い人だと見落としてしまうのではないかと、心配になることがあります。

私たち刺繍の仕事は、糸色を間違えると致命的です。
やり直しが利かない素材もありますし、場合によっては弁償につながることもあります。
だからこそ、糸の扱いには慎重に慎重を重ねています。

今日もまた、一本一本の糸と向き合いながら、
その時間を大切に積み重ねています。