ほんとは最強というレーヨン糸の話


業界では、「レーヨン糸はポリエステル糸より弱い」
という経営者の声を耳にすることがあります。

でも、毎日現場に立っている私は
ずっとそのことに疑問を感じてきました。

確かに、糸を手で引っ張って切ると、
ポリエステルの方が糸が切れにくく、強く感じます。

糸を指で切ったときの先端

でも、切り口をよく見ると、レーヨン糸の方は細かい繊維がふわっと広がっています。


目には見えないけれど

ここからは、あくまで私の推測です。

レーヨン糸は、表面にも目には見えないほど細かな繊維が、飛び出ているのではないか。
そんなふうに感じています。
それは手触りからも感じます。ポリエステル糸はスルッとしていて、レーヨンはザラっとした感触です。

10cmにカットした糸を素直に布の上に置いた画像
右:レーヨン糸 
左:ポリエステル糸

横から見たとき、レーヨン糸の方がくにゃっと立ち上がり、うねりが強いのが分かります。


ネジとラーメン麺構造

この“うねり”を見て思い出したのが、ネジです。
ネジは、回しながら入るときはスムーズなのに、
止まると、しっかりロックがかかります。

レーヨン糸のうねりも、刺繍する相手布の中に入ったときに、
繊維同士をギュッとつかむ役目をしているのではないでしょうか。

もうひとつ、何かに似ているといえば、ラーメンの麺。
麺にうねりがあるのは、スープをよく絡ませるためです。

それと同じで、レーヨン糸のうねりも、
布の繊維にしっかり絡むための形なのかもしれません。



レーヨン糸は「呼吸する」

ここで、もうひとつ。
レーヨン糸は人絹糸なので、
ポリエステルに比べて水をよく吸う性質があります。

洗濯をすると水を含んで少しふくらみ、
乾くとまたきゅっと締まる。

このふくらんだり、縮んだりを繰り返すことで、
刺繍と布とのなじみが良くなり、繊維どうしの密着が増して、
刺繍がより安定するのだと思っています。



熱にも強いレーヨン糸

ワッペンのフチを布地のほつれを止めながら、熱で布を切るときに
ヒートカットという道具を使います。

このヒートカットを利用して、ポリエステル糸に熱を当ててみると
糸はすぐに、ぷつんと切れました。

ところが、レーヨン糸はヒートカットの先を10秒以上押し当てても、
見た目にはほとんど分からないほど、
わずかな焦げ跡が残るだけでした。

もちろん、ずっと当て続ければ影響は出ます。
けれど、一瞬の熱で切れてしまうポリエステルに比べると、
レーヨン糸は熱に対しても、強いと感じます。




10年後に教えてもらったこと

あるとき、周年記念で刺繍したタオルを、
10年ぶりに見せていただく機会がありました。

数字を変えて、また記念品を作りたいというご相談でした。

タオル地は、さすがに色あせていましたが、
刺繍はほつれもなく、そのまま残っていました。

このとき使っていた糸も、やはりレーヨン糸でした。
「やはり、この糸にはこの糸の強さがある」と、あらためて感じた瞬間でした。


レーヨン糸の本当の強さ

レーヨン糸は「弱い」と評価されるかもしれません。

しかし実際の刺繍では、

⚪︎繊維同士の絡み
⚪︎うねりによる固定性
⚪︎吸水・乾燥による動的な安定化
⚪︎熱に意外に強い

こうした複合的な要素が働き、長期間に耐えうる刺繍を生み出していると思います。

レーヨン糸の本当の強さは、
数値で測れる強度ではなく、縫い込まれた後に発揮する、「機能としての強さ」だと私は思います。

ーご注意ー
業務用の洗濯で漂白に、強い化学薬品を使用する場合は、もちろんポリエステル糸の方が向いています。